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クロエ マーシー 中古編集

 カリーナは、この機会に、タルサンの衛兵たちも処分してしまおうと考えていた。さしたる数ではないが、タルサンに絶対の忠誠を誓っているこの男たちは、王国軍の内側においておくには、危険だった。……かといって、理由もないのに処刑はできない。ここで彼らが陰謀に加担すれば、彼らを一掃するりっぱな口実がうまれるのだ。  タルサンのような豪快な男にほれこみ忠誠を誓う、海賊のころからのヤルターシ・シュリ〈海の兄弟〉の伝統を、サンガル王国はいっこくも早くすてさるべきだ、とカリーナは思っていた。  個人に忠誠を誓う兵士はいらない。――必要なのは、王国に忠誠を誓う兵士なのだ。 (……反逆しなさい、兵士たち。)  彼らがうごいたときが、処刑許可がおりる瞬間だった。彼らをはさむように配置している王の近衛兵たちは、彼らが島守りたちの命令でうごいた瞬間に、刺しころすよう命じられていた。  タルサンの衛兵たちも近衛兵を殺すよう命じられているかもしれないが、数の上では近衛兵のほうがまさっている。  すべての者が、それぞれの思いをこめて、ひとつの声がひびく瞬間をまっていた。  付き人が縄をむすびおえてしりぞくと、王がすすみでた。そして、娘のまえに立って、送る言葉をのべようとした……そのときだった。 「かかれっ!」と、アドルが、かんだかい声でさけんだ。島守りたちが、いっせいに懐《ふところ》にかくしていた短剣をぬきはなった。彼らは王へむかってかけよりながら、タルサンの衛兵たちに命じた。 「近衛兵をおさえよ!」  王は、すっくと立って、懐から短剣をぬきはなつと、おそいかかってくる島守りにむかって身がまえた。カリーナは身をかたくして、王の近衛兵たちの応戦をまった。  ふたつの兵の波がたがいに行動をおこそうとした、その刹那《せつな》、思いがけぬ大音声が、闇を裂いてひびきわたった。 「ダルガーナ〈静止せよ〉!」  そして、ほぼどうじに、島守りの先頭をきって王におそいかかったアドルが、もんどりをうって、あおむけに地面にたたきつけられた。  アドルは、なにがおきたのかわからず、地面にたおれていた。目のはしで、なにかが光るのをみた……とたん、右肩に棍棒《こんぼう》でなぐられたような衝撃を感じて、ひっくりかえったのだ。  うごこうとしても、地面にぬいつけられたようになって、うごけなかった。  ほかの島守りたちは、あぜんとして動きをとめ、右肩を銛でつらぬかれ、地面にぬいつけられているアドルをみつめていた。
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